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弱者救済と差別① [2005年3月]

弱者救済と差別①

人権擁護法案にきな臭さを感じて以来、差別とは何なのかを自分なりに考えているのですが、今回も差別に関して書いてみたいと思います。
一応、①としたのは②までは考えているからです。

学生無年金訴訟、元学生側逆転敗訴 東京高裁
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国民年金が任意加入だった大学生時代に重い障害を負ったが、国民年金への未加入を理由に障害基礎年金を不支給とされた元学生3人が国などを相手取り、1人あたり2000万円の賠償などを求めた訴訟の控訴審判決で、東京高裁(宮崎公男裁判長)は25日、元学生側全面敗訴の逆転判決を言い渡した。元学生側は上告する方針。

同種の訴訟では、東京地裁のほか新潟、広島両地裁でも「法の下の平等を定めた憲法に違反する」との判決が出ており、いずれも国側は控訴している。この日が初めての高裁レベルの判決だった。

学生が国民年金に強制加入するよう法改正されたのは89年で、91年から実施された。それ以前は任意加入で、未加入のまま20歳以降に重い障害を負った学生は、障害基礎年金の支給を受けられなかった

一審判決は、20歳未満で障害を負った人が障害基礎年金を受給できるようになった85年の国民年金法改正で、20歳以上の学生無年金者に何の措置もせずに放置した「立法の不作為」について、「法の下の平等に反する」と結論づけた。

これに対し、この日の判決は「20歳前に障害を負った者と、20歳以後に障害を負った学生との取り扱いの差異は、立法者による裁量の範囲内の制度選択の結果だ」とした。「大学進学者は少数で、経済的に余裕のある者だという社会通念も、通用しなくなったとはいえない」とも述べ、格差は不合理とはいえないと結論づけた。

この問題をめぐっては昨年12月、救済措置として「特定障害者給付金支給法」が国会で成立。無年金学生に、障害の程度によって月額4万~5万円を支給する制度が4月から始まる。ただ、障害基礎年金(1級は月額約8万3000円、2級は約6万6000円)との格差は残っている。厚労省の推計では、無年金学生は全国に約4000人いるとされる。
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 さらに、上記の無年金障害者訴訟に関する赤旗の記事も引用します。

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血も涙もないとはこのことか。

学生時代に障害を負いながら、国民年金への未加入を理由に無年金のまま放置されている元学生が、救済を求めている裁判の控訴審で、東京高裁が出した判決のことです。

一審の東京地裁判決は、国の責任を認め、賠償を命じていました。ところが、高裁判決は、原告の請求をいっさい認めず、「過去の無年金者をどう取り扱うかは国の裁量の範囲内で、さかのぼって救済する義務はない」としました。国の責任をまったく認めない判決です。憲法を逆さまに読んでいるとしか思えません

自己責任を押し付ける
無年金障害者が生み出されたのはなぜでしょう。一九八五年の国民年金法改定で、二十歳未満で障害を負った人には障害基礎年金を認める一方で、二十歳以上で障害者となった未加入学生には不支給にしたことが問題でした。

八五年当時は、二十歳以上の学生の国民年金加入率は1―2%にすぎませんその点について、高裁判決が、「学生の関心が低かったことも理由だ」としていることは、まったく実情を無視しています。

圧倒的多数の未加入学生に、自己責任を押し付ける高裁判決は、許しがたいものです。

原告が、障害で失った経済力の年金制度による保障を求めたのにたいしても、高裁判決は「障害で働けなくなることへの備えは、本来各個人か扶養者がすべきだ」とのべました。何と冷たい判決でしょう。

未来ある学生時代に重い障害を負ったという不幸の上に、障害基礎年金を受給できない苦しみ。国の調査でも、無年金障害者(身体障害)の約四割が年収五十万円未満です。障害者の自立と社会参加を実現するために、障害基礎年金の支給を保障することは当然です。(中略)

四月一日から施行される
“無年金障害者救済法”(特別障害給付金制度)も、東京地裁判決を受けてつくられ、昨年十二月、国会で成立しました。

国民年金の任意加入の時代に未加入だったために、障害基礎年金を支給されていない障害者(元学生と、厚生年金・共済年金加入者の配偶者)が対象です。障害の程度によって、月額四―五万円を支給する制度です。障害基礎年金に比べ、額が少ないなど、不十分な点も残しています。
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学生時代に事故などで後天的に障害を持ったために、現在不自由を余儀なくされているということは察するにあまりあることです。

障害を持った方々が不自由せずに自立できるようにするということは互助・互恵の観点から重要なことで、そのための救済は必要であると思います。

ただ、この訴訟には異議があります。
この訴訟の訴求点は以下のとおりです。

・国民年金未加入を理由に障害年金を受けられないのは法の下の平等に反する。
・20歳未満の学生と20歳以上の学生で取り扱いが異なるのはおかしい(差別である)。
・故に無年金障害者への救済を求める。

これを考えるために、想定されるケースに分けてみます。

1.20歳以上、加入、障害者
2.20歳以上、未加入、障害者
3.20歳未満、加入不可、障害者
4.20歳以上、加入、健常者

この原告の方々は、2に該当します。
さて、1、2、3を比較してみた場合、どうなるでしょう。
不幸にも障害を負って、現在不自由な生活を余儀なくされているという点では、三者とも同じです(障害の程度差は考慮せず)。
1及び3に該当する人は、1級で月額8万3千円、2級で月額6万6千円の障害基礎年金が支払われます。
一方、2に該当する本件の原告の方々は、今年4月から、特定障害者給付金支給法によって、月額4~5万円が支給されます。

ここで、1と2、1と3、2と3を見た場合に訴訟のポイントは、2と3の比較についてのみ行われています。2も3も保険料を支払っていないという点で同じだから、取り扱いも同等とすべしということでしょう。

しかし、年金に加入できるが、任意であるために加入しなかった対象者と、そもそも年金に加入できない対象者を障害者という分類だけで、同義のごとく主張するのには、無理があります。
運転免許を取れる年齢だが取らないという選択をしたことと、年齢制限により免許が取れないということが同じでないのと一緒ではないでしょうか。
また、20歳という年齢は、社会的に大人として認知され、参政権が付与されたり、酒、たばこなどの嗜好品も許可されます。つまり、大人か否かという違いがここにあるという点も看過すべきではありません。

と考えれば、比較すべきは年齢という条件が同じである1と2において、法の下に平等であるか、どうかになります。
1に該当する方は、任意であったが、加入していたためにその程度に応じて障害基礎年金を受けています。加入者として当然の権利を享受していると言うことになります。一方、2に該当する人は、加入をしていないために1の人達とはその取り扱いが区別されているにすぎません。

救済に関しては、法律が4月から適用されますので、何の手当てもないわけではありません。しかし、上の記事を見ると、1の人達が受ける年金額と2の人達が受取る給付金に差があることが問題視されています。

しかし、もし1=2という取り扱いをすれば、1の人達にとってみればそれこそ不平等になるのではないでしょうか?

八五年当時は、二十歳以上の学生の国民年金加入率は1―2%にすぎません

この赤旗の記事が指摘していることですが、それを持ち出すことは問題があります。
加入していない98~99%の人達全員が、任意加入の件を知らなかったかどうかはこの数字だけではわからないからです。知った上で、自分の判断で加入しなかった人達も含まれることを無視してはいけません。
仮に、全員が知らない、が故に未加入だったとしても、それを是とすることはできません。それが罷り通れば、大多数が知らなければ、法を犯してもいいということになるからです。

圧倒的多数の未加入学生に、自己責任を押し付ける高裁判決は、許しがたい

ともありますが、これはあまりにも不見識です。許しがたいのは、こういう不見識で非常識なことを実しやかに平気で書く赤旗の人間でしょう。
これはむしろ、

圧倒的多数の未加入学生が、自己責任を国に押し付けようとするのは、許しがたい

となるべきです。学生とは言え、大人なんですから。

ところで、つい最近、年金法案が議論されていたときに、国会議員の年金未納問題が出ましたが、その中には、学生時代にうっかりしてという議員もいたのではないでしょうか?
そのとき、赤旗を含むマスコミの報道、そして世論はどういう反応を示したでしょうか。

その不見識を多いに詰った(なじった)のではなかったでしょうか?
そこでは、自己責任という言葉も出ませんでしたか?
少なくとも、

大多数の未加入学生に自己責任を押し付けるのは許しがたい

というのとは真逆の対応だったと思います。

それと、学生時代に未加入だった方々と何が違うのでしょうか?
障害を負った、それで不自由しているという違いはあっても、任意とは言え、加入を怠ったのは事実であり、政治家のそれが詰られるのであれば、彼らのそれも当然、批判されてもおかしくはないはずです。

私はそこに障害者への差別を見てしまいます。本来なら、本人の過失を攻められるべき事案が障害者というだけで、逆の対応がなされているのです。
救済するということと、権利者と非権利者を区別することは次元の異なる問題です。合理的な区別と差別を混同しないことが差別根絶の第一歩ではないかと私は考えます。

差別にいい差別も悪い差別もありません。良かろうが、悪かろうが、差別することが問題であり、それを無くすためが重要なのです。自分にとって、不都合な部分のみを差別と言えば決して差別はなくなりません。

東京高裁が言うところの、 

障害で働けなくなることへの備えは、本来各個人か扶養者がすべきだ 

は正論であり、何の不備もないと私は思います。少なくとも、法理に則れば、それ以外に言えないでしょう。もちろん、そうであっても温情的に救済するということは別次元の問題であることは言うまでもありません。

ところで、これに対して赤旗は、

何と冷たい判決

と断じています。彼らの不見識は共産党のそれを考えれば驚くに値しないことではありますが、敢えて書けば、そもそも「暖かい」とか「冷たい」とかの次元で語ること自体が間違っています。

さて、上の分類で4に相当する人達について少し考えて見ます。
これに該当する人達は、将来、受取る年金額が減ることになります。しかし、それをして、国の立法不作為を訴える人がいるでしょうか?
恐らくいないと思います。自分の過失(未加入・未払い)とそれに伴う減額という因果がはっきりしているからです。

要するに、2に該当する人達も事故などで障害を負わなければ、4の人達と同じだったわけです。そこに「障害」が加わると1と同等になるというのは、やはり問題があると言えるでしょう。

もし、この裁判が、加入に関する遡及手続きを争点にしたのであれば良かったのにと思います。
そうすれば、障害を負ったという特段の事由に考慮して、特例として過去に遡って加入手続きを認め、障害を負うまでの保険料支払いを条件にした障害基礎年金の受給は可能だったのではないかなと思うからです。

②では、在日韓国・朝鮮人高齢者無年金訴訟について触れたいと思いますが、この障害者訴訟において争点となった、未加入者(非権利者)に対する法の下の平等は、高齢者訴訟の伏線ではないか、この障害者の方達はそのための出汁にされたのではないかと勘ぐっています。

 

最後に、実際に障害を負っているわけでもなく、日頃、障害者の方と触れているわけでもない私が障害者の方々のことを語るのは、僭越で、それは単なる奇麗事だったり竹林の清談なのかもしれません。
と思いながらも書いたのは、養護学校で教諭をしている友人の言葉を聞いて差別とは何かを考えたからです。

健常者のできることだけで採点すれば、勿論障害を持っているだけ分が悪い。
そりゃ、健常者が得意なところだけで比較するんだから当然だよ。
でも、人に備わっている様々な能力を考慮すれば、そこに優劣なんてないんだよ。
俺達には到底できないが彼らにはできることだってたくさんある。
だから、特別じゃないんだよ。健常者が活躍する場ばかりあるから、不利に見えるだけ。
俺は教える立場だけど、いつも子供達に教わってばかりいるんだよ。

だから、私は障害者だからという理由で特別視するのは良くないと思います。
それが、いいことでも、悪いことでも。
重要なのは健常者、障害者に依らず仲間や友人として、普通に労わりの気持ちや思いやりを持ちながら、できるだけ同じことが出来る社会にする、もしくは彼らにしかできないことが十分に発揮できる社会にすることではないかと思います。
本エントリはそういう観点から書いたものとご理解いただければ幸いです。


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wowow

>健常者が活躍する場ばかりあるから、不利に見えるだけ。

と言う言葉にうなってしまいました。といってもそこで思考がストップしてしまいましたが。

②を首を長くして待っています。
by wowow (2005-04-02 18:31) 

FD3S

wowowさん、いらっしゃいませ。
多くのコメントをいただき、ありがとうございます。多謝!

>健常者が活躍する場ばかりあるから、不利に見えるだけ。
私もこれには唸りました。友人の誘いで文化祭に何度か行ったのですが、それぞれに魅力のある子供達ばかりでした。
障害者だからということで特別扱いせずに、自然と共生できるようになれば、「区別」がなくなるわけではないでしょうが、「差別」はなくなるような気がします。
②も頑張って書きますので、もう少しお待ち下さいませ。
by FD3S (2005-04-02 19:24) 

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