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スペースコロニー「友情島」 [2005年4月]

スペースコロニー「友情島」
(夢想コラム)

憲法改正論議が高まる日本において、義憤に駆られた市民達が立ち上がった。
市民の権利が蔑ろにされていると。

その怒りのパワーは彼らをして、理想の憲法を作らしめた。

それは市民の手による「義務」のない世界を実現するという超進歩的な憲法であった。
既存の憲法とは、発想をまるで異にするその内容に多くの国民は唖然とした。
そう、逆説の発想のエキスパートである、井沢元彦氏でもこうは行くまいというほど、見事な逆説的発想の憲法であった。

しかし、未だ後進的で発展途上の価値観しか持ち得ない多くの日本国民は、彼らのあまりにも進歩的で他の追随を許さない発想を理解することすらできなかった。
勿論、旧態依然とした国家権力はこれを一蹴した。

彼らには、進歩的文化人と言われる学者、ジャーナリスト達そして、日本のクオリティペーパーと言われるA新聞が味方についたが、多勢に無勢、衆寡敵せず、彼らは少数派として、肩身のせまい思いを余儀なくされた。

しかし、彼らの溢れる情熱は留まることを知らず、ひとつの解決策を見出した。それは、地球という概念すら超越した、

スペースコロニーへの移住

だった。

そういう彼ら超進歩的文化人達を、多くの後進的国民は羨望の気持ちを込めて「宇宙市民」と呼ぶようになった。

かくて宇宙市民は崇高な理想の下、コロニー建設に着手した。彼らの熱い思いに打たれた日本国政府は特段の措置として、コロニー建設費用の一部を負担した。また、多くの国民達も少ないながらも募金を集め、彼らの新生活をバックアップした。
コロニーの建設には、宇宙開発で日本よりも実績のある中国が全面的に協力を行った。

そして、コロニーが完成し、宇宙市民達は日本を離れる日が来た。
日本の首脳も多くの国民も万感の思いを胸に、出立する彼らのために全員起立して日の丸を手に君が代を斉唱して餞(はなむけ)とした。

宇宙市民達は、栄えある宇宙市民証を発行した。この証明書は、崇高な理念と飽くなき権利の追求者にしか与えられない非常に希少なものであった。それを得ることができた面々を見て、一般国民は納得し、自分達には決して手に入れることが出来ないものであることを確信した。

ところで、宇宙へ旅立つ彼ら宇宙市民には最早、国籍など古い概念の産物は不要となっていため、失効した国籍は、帰化を望む多くの在日外国人達へ譲られることとなった。

スペースコロニー「友情島」は国ではない、敢えて言えば宇宙市民一人一人が国であり法律である。つまり、一人一人が思う存分己の権利を追及できるのだ。

権利の追求のために邪魔になる義務など一切ない。
つまり搾取するものもいなければ、搾取されるものもいない。

教育も義務ではないから学校はない。だから、卒業式などで国旗や国家に煩わされることはない。

労働も義務ではないから、誰かのために働かなくてもいい。満員電車に揺られることも、渋滞した道路を走ることもない。そもそも、燃料を必要とする乗り物はここには存在しない。なにせ環境破壊に繋がるからだ。エコロジーな彼らは己の足で逞しく生きているのだ。

そうそう、納税の義務もない。働かないのだから当然だ。というよりも格差を生みかねない通貨という概念も最早不要なのだ。だから納税など有り得るはずもない。

コロニー住民の知る権利を守るために、唯一報道機関としてコロニー入りしたA新聞だったが、太陽光発電によって輪転機を動かして発行しても配る人がいなかった。また個々人のプライバシーを侵す恐れがあるために取材は出来なかった。そしてA新聞は長い歴史に幕を下ろした。
尤も、理想の世界を手に入れた彼らにとって、体制批判をする必要などないことを考えれば自明のことであった。

コロニーの生活は、自給自足を基本としている。環境との共生も大事な価値観であるからだ。公平を帰すために非占有地を一切なくし、それぞれが均等に耕作地を持ち、己がためだけにそれを耕す。
文明の利器からは疎遠となったが、誰にも縛られない、誰も縛らない理想的な日々を送ることができた。

そんなある日、宇宙市民間でトラブルが発生した。

だが、基本的人権と憲法9条を心の拠り所とし、頑なにそれを信奉する彼らには、全てが話し合いで解決することになっている。もちろん武力も完全に放棄しているから暴力なんて起きるはずがない。

ところが、この世界ではそれぞれが己の権利を追及するために法を持っているが、それぞれは等しく尊重されるために、双方の話し合いは平行線となった。
年長者がそれを諌めようとしたが、片方から人権の侵害だと言われ調停は失敗した。

解決しないトラブルが頻発するうちに、いつしか権利を同じくするもの同士が集団化するようになった。集団を構成する人間が多ければ多いほど権利の主張が通りやすくなった。

一方、権利を蔑ろにされた少数派は人権の救済を訴えるが、調停のための法も機関もなければ、その権限を付与された人間もいないために、泣き寝入りせざるを得なかった。

大集団は小集団を駆逐したり併合したりしながら更に大きくなり、幾つかの勢力がコロニー内で睨み合うようになった。
集団を維持するために労働を義務付けられる階層が生まれた。
また、自集団の防衛、他集団の駆逐のために、力のあるものが珍重されるようになった。

力のあるものは弱いものを屈服させ、上位階層を占めた。
そして己が権力の維持と権利を護る為に、下層の者達は酷使され自由に物を言うことも権利を主張することも出来なくなった。

基本的人権も憲法9条も形骸化し、誰もそれを守らなくなった。もとより守るための基盤がなかったのだから当然の帰結と言えた。

 

集団間の争いは熾烈を極め、

来る日も来る日も争いが続いた。

 

 

宇宙市民がコロニーに移住して数年後、日本有志がコロニーを表敬訪問した。

 

 

 

 

しかし、そこには、誰もいなかった。


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コメント 8

てっちん

スペースコロニー移住計画楽しく拝見させていただきました。
移住した人間の数だけ憲法という秩序が乱立することになりますからおのずとこのコラムのようになるのは必然な気がします。
ただ、あっち系の人はときおり理解不能なことをしますので、コロニーなんて与えたら・・・




対立が起きたのは日本のせいだ!とコロニー落としを実行!
なんて・・・。でも義務がないからコロニーのメンテナンスをやらなければいけない人もいないから、これも必然的に故障発生などして人が住めなくなるかも・・・
どの道だめじゃん(笑)
by てっちん (2005-04-06 12:29) 

FD3S

てっちんさん、いらっしゃいませ。
こちらにもコメント下さり、ありがとうございます。

権利だけを主張しても何にもならないことをデフォルメしたのですが、
実際は、何があろうとも彼らは日本を離れないでしょうね。

反対する対象がなければ、自己の存在を確認することが出来ない人達ですから。
社会では、多くの人が義務を果たすことで、機能しているという根本的なことすら理解できない彼らは、よっぽど都合のいい発想ができるのでしょうね。
まるで、地球は自分を中心に回っていると思っているようです。

彼らは、自分達を絶対正義と位置づけて高みにおいて他を批判しているんですよね。主張のために、弱者や美辞麗句を並べた看板を上げていますが、中身は己が欲求を満たすことに執心しているに過ぎません。

平和も平等も教育も弱者救済も差別も、彼らから取り戻すことが日本が「まとも」になるために必要なことではないかと思います。
by FD3S (2005-04-06 13:08) 

abusan

サヨクカルトに対する痛罵がお見事ですね。

彼らが如何に自滅の道を歩んでいるのかと言う
笑い話ですな。なんか星新一を思い出しました。
by abusan (2005-04-06 14:28) 

FD3S

abusanさん、いらっしゃいませ。
コメントどうもありがとうございます。

仰るとおり、権利のみを声高に叫ぶ彼らの主張の行き着く先は、破滅的な世界だと思います。自己矛盾を抱えたまま、解決する術がないまま突進していますからね。

ところで、
>なんか星新一を思い出しました。
とは、なんとも、恐れ多いことです。
過分なお褒めに預かり汗顔の至りです(汗
でも星新一氏のショートショートは面白かったですよね。
次はN氏でも登場させてみようかな。
by FD3S (2005-04-06 14:38) 

Hiro-san

Then, there was none.(「そして誰もいなくなった」by アガサ・クリスティー)
いいこと思いついた。ピースボートに革マル派、中核派、「解放の神学」の隠れ活動家を招待して、共同セミナーをやらせる。4人部屋の同室にしておけば、どうなるか、おもしろいな~。
by Hiro-san (2005-04-06 18:11) 

FD3S

Hiro-sanさん、いらっしゃいませ。
コメントありがとうございます。

「そして誰もいなくなった」かぁ、最後の一文それにすればよかったなぁ。

>いいこと思いついた。
こんな夢想コラムがきっかけになれば感慨無量です。
4人のうちどういう順番でバトルのか楽しみです。
大作を期待しております。
by FD3S (2005-04-06 23:23) 

wowow

>なんか星新一を思い出しました。

本当に雰囲気が似ていますね。淡々と描写が進んでいくところなんて。

楽しい物語をありがとうございました。
by wowow (2005-04-08 23:31) 

FD3S

wowowさん、いらっしゃいませ。
コメントありがとうございました。

そんなに褒めても何もでませんよぉ。(笑
いやいや、過分なお褒めの言葉を賜り、うれしい限りです。
ありがとうございます。

星新一さん、良かったですよね。学生時代よく読んでいました。
久しぶりに読みたくなったな。
by FD3S (2005-04-09 13:02) 

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