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性差と研究費 [2005年3月]

性差と研究費

大学研究者の研究費に偏り 国公立男性、私大や女性の倍

-----引用開始-----
科学研究費補助金(科研費)など研究費の配分や使途の問題が指摘されるなか、国公立大学の男性研究者が1年に使う研究費は、女性や私立大学の研究者の2倍前後であることが、約1万9000人が回答した理工系39学会のアンケートでわかった。このような大規模調査は初めてといい、国公立と私立、男性と女性の間に明らかな差があることが浮き彫りになった。

男女共同参画学協会連絡会が03年に実施し、電気情報や物理、機械、化学材料、生命生物などの研究者が回答。分析した近藤高志・東京大助教授(マテリアル工学)らが20日発行の「大学時報」3月号に発表する。

年額研究費の平均は、国公立大の男性が752万円で、女性が329万円私立大の男性は449万円、女性が302万円だった。差は40代から拡大。50代前半では国公立大の男性は1280万円になるが、女性は480万円。私立大は男性が625万円、女性が321万円だった。

同じ調査では、女性の教授や助教授などへの昇進が男性より遅いことも改めてわかったが、研究費の差はそれ以上。近藤さんらは「女性は役職という表向きの差以上に、極めて不利な状況にある」としている。

研究費の問題に詳しい竹内淳・早稲田大教授(半導体工学)は「配分を決める審査員が、国立大の男性研究者に偏っているという問題も背景にある」と指摘している。
-----引用終了-----

私は研究開発を生業にしております(おりました)関係上、特に国立大学の先生とのお付き合いがあるのですが、この括り方は問題があると思います。
科学研究費補助金(通称科研費)は各大学とも研究者が申請し、審査によって振り分けられるものです。

ここでは、私立や女性の研究者が一様に低い評価を受けているように書かれていますが、そもそも男女別(国立私立別)の申請数や採用数、申請時の予算規模、研究の中身など相対的な情報に一切言及していないで結果のみを論じるというのは客観的な報道なのでしょうか?
分母が分からずに分子だけを言われても実態が掴めないのと同じです。

気になるのは、男女共同参画と言えば、何でも同じにしなければならないような印象を与えていることです。
男女の別なく、優秀な人であれば、等しく同じ評価が得られるということが男女共同参画の主旨であり、研究費や昇進など研究者としての業績が反映されるものについては、個々人の資質に依存するものです。

ですから優秀な研究者に研究費が集まるのは自明のことで、そういう先生のもとには、公的な補助金だけでなく、企業からの共同研究の依頼も多くあり、潤沢な研究費のもとで成果を出しています。ただし、その分大きな責任も負っています。

女性は表向きの差以上に極めて不利とありますが(女性ということで不利益が一切ないとは言いませんが)私が知っている理系の場合は、論文の数、特許の数、企業との連携などの社会還元などがファクターになりますので、結果さえ出していれば、役職も研究費も自ずと得ることができますし、そういう優秀な研究者に相応の待遇を施せない大学はその真価を問われることになります。

また、科研費においては、研究者の業績のほか、国策としての技術開発にどれだけ寄与するか、研究の新規性はあるかなどが審査の基準であり、審査委員が男だからという一面的な理由だけで女性が不利というのは、客観性を欠けています。
仮に審査委員が女性だけの場合に、採択に占める女性研究者の比率が多くなるというのであれば、それこそ問題ではないでしょうか?

国立大学の場合は独法化以降、国庫補助を一律に分配せず、学長裁量経費を多くして、業績の高い先生もしくはそれが期待される先生に多く配分されるようになっています。
結果を出せる人と出せない人との間に様々な差が生じることは今や大学では当然の事になってきています。これは、研究者の資質に起因する合理的な区別であり、差別ではありません。

競争社会において、性差のみで区別することは合理的理由を欠いており、なくさねばならない差別であると思います。
スタートの時点で、性差による差別があるならば(例えば、申請そのものに性差による制限があると言うのであれば)、それは由々しき問題であり是正すべきでしょう。
しかし、同じ条件でスタートした後、各人の資質や努力によって差がつくのは能力の問題であり性差が介在する余地はないでしょう。
このアンケート結果は、いわば、同じところからスタートした後のことを示しているのでありそれを恰も差別がごとく報じるのは極めて恣意的であると言えます。

優秀な研究者が女性であるということがあだとなって、研究が十分にできないということは技術立国を標榜している日本にとってマイナスであることは言うまでもありません。しかし、技術立国であるからこそ、研究の中身を議論せずに男女という概念だけを論じるのはこれもマイナスであろうと思います。


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コメント 4

pontaka

初めてコメントさせていただきます。朝日らしい強引な記事です。現在女性のprofessorを増やすために、むしろ優遇政策をとっているのは、日本の若手研究者の中では比較的知られていることなのに。この記事を見て同じように感じている方がおられて、ちょっと安心しました。
by pontaka (2005-03-17 21:54) 

FD3S

pontakaさん、いらっしゃませ。
コメントありがとうございます。
以前、遺骨問題についてTBさせていただきましたが、コメントもせずに失礼致しました。
私は民間の研究者(だったの)ですが、国立大学に関しては、独法化もあって、仰るようにどんどん開かれています。そして成果主義も進んでいます。
私立の先生とは、大型プロジェクトでご一緒したことがあるのですが、決して不自由はされてなかったように思います。
成果を出せる優秀な先生が冷遇されるのは、男女の別なく問題であり、こういう一面的な記事を見ると、何かミスリードさせる意図があるようで不愉快ですね。
雑食系の拙いブログですが、また遊びにいらしてください。
by FD3S (2005-03-17 22:18) 

実情

ブログ、拝見しましたが、ポイントを完全に外してらっしゃいます。
そもそも「日本の科研費の審査制度が公平である」という誤解にもとづいて発言されているようですが、たとえばアメリカの制度に比べて公平性は相当低いのが実情です。
本当に公平性が高いのであれば、審査員に女性や私立大の研究者を入れても何の問題もないはずです。
by 実情 (2005-06-01 00:34) 

FD3S

実情さん(とりあえずそう呼称させていただきます)、いらっしゃいませ!
コメントどうもありがとうございます。

お名前から、実際の状況にお詳しい方であるとご推察致します。

さて、まず私がこの記事について「?」と思ったのは、アンケートの結果です。

>電気情報や物理、機械、化学材料、生命生物などの研究者が回答

というアンケートによって、男性研究者優位の結果が出たことが即ち差別的待遇を指すものではないと思いました。
まず分野によってもともとの男女構成の比率も異なるでしょうし、研究に必要な予算規模も異なります。科研費のどの部類に申請したかも異なるでしょう。そんな状況の中で出願数も採択数も載せずに、補助金額の平均だけ載せるのは誤解を生む可能性があると思います。
ということで、朝日新聞の論調(女性研究者が不利であるという論調)を否定したものです。少なくとも当該記事の情報から、この記事のような結論は導出できないという主旨です。

私は学外の者ですが、大学には未だに旧態依然とした権威主義が罷り通っているという話を聞くことがあります。そういう人間ばかりが審査をすれば不公平な結論になる可能性は否定できないと思っております。
そして、そういうことは日本の技術開発にとって得るところはありませんから、根絶すべきことだとも思います。

私としては、男だ女だという問題を研究の世界にまで持ち込んで欲しくないと思います。だから、私大や女性研究者が審査に加わることで「不公平」が是正されるのであれば、すぐにでも制度の見直しをすべきであると思います。

ただ、ここで言いたかったのは、ややもすれば、結果の数字だけで有利/不利を断じてしまうことに対する懸念です。
尤もご指摘のように前提とし、担保としている審査制度に不備があれば意味をなしませんが・・・。

長くなりましたが、機会が均等に与えられた上で、能力依存型の研究社会が構築されることこそ、研究開発を生業とする私の偽らざる心情です。

折角の機会ですので、お時間のあるときにでも、現在の科研費の不公平さについてご教授いただければ幸甚に存じます。
by FD3S (2005-06-01 02:24) 

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