愛国無罪を責められない [2005年5月]
愛国無罪を責められない
中国でデモが頻発し、その一部が暴徒化したときに「愛国無罪」を掲げていたことは、まだ記憶に新しいことです。
彼らも、日々の鬱憤を「反日」というお題目を唱えることで解消していたのではなかったでしょうか？暴徒化した連中は「愛国無罪」の大義名分の下に破壊行為をエスカレートさせました。
そのとき、国内世論はどうだったでしょう。「民度が低い」という言葉で括ったりしていなかったでしょうか。
YOMIURI ON-LINE / 社会
運転士や車掌などへの嫌がらせ、事故後７０件…ＪＲ西
ＪＲ福知山線の脱線事故後、ＪＲ西日本管内で、運転席後方のガラスに「命」と印刷された紙が張られたり、女性運転士がホームでけられ線路に落ちそうになったりする嫌がらせ行為が約７０件も相次いでいることが、７日わかった。
事故以降も後を絶たないオーバーランや不祥事も影響しているとみられている。西日本旅客鉄道労働組合（ＪＲ西労組）などによると、４月２７日夜、ＪＲ東海道線の大阪駅に着いた新快速電車の運転席後方のガラスに「命」と書かれた紙が上下逆さまに張られているのが見つかった。同様の張り紙はこれまで計６回あった。
今月６日には、大阪駅ホームで電車を見送っていた女性運転士が、男性に足をけられ、ホームから転落しそうになったという。
このほか
▽東海道線・野洲駅で、男性駅員が「尼崎の事故でたくさん死んでいるのにＪＲは何をしてるんや」と言われ、顔を殴られた
▽福知山線・宝塚駅で、若い車掌が乗務員室から引きずり出された▽大阪駅で、運転士がコーラの缶を投げつけられた――などが相次いでいる。
全く、冗談じゃない。これでも日本人は「民度」が高いのでしょうか。
ＪＲ西日本に問題があり、甚大な事故を起こしたことは言うまでもありません。そしてそれは、法治国家である日本では法に照らして処罰されます。それが妥当な処置がどうかは議論の余地はありますが、裁くことができるのは法とそれを代理執行する国民の総体である国であるはずです。
マスコミ批判もそうですが、その根底になるのは、裁くべきでない者が裁こうとする不条理、越権的傲慢ではないでしょうか。
＞「命」と書かれた紙が上下逆さまに張られているのが見つかった。同様の張り紙はこれまで計６回
＞大阪駅ホームで電車を見送っていた女性運転士が、男性に足をけられ、ホームから転落しそうになった
＞東海道線・野洲駅で、男性駅員が「尼崎の事故でたくさん死んでいるのにＪＲは何をしてるんや」と言われ、顔を殴られた
＞福知山線・宝塚駅で、若い車掌が乗務員室から引きずり出された
＞大阪駅で、運転士がコーラの缶を投げつけられた
運転席の後方で「命」って人文字作ってるぐらいならいいんですが。
陰湿なもの、理不尽な暴力や言い掛かり、中国のデモとどこが違うのでしょうか？頻発する置き石も同じです。
同じ日本人として（日本人とは思いたくないですが）、恥ずかしい限りです。
事故の原因の最たるものは、ＪＲ西日本にあるのは間違いないでしょう。しかし、そこに至る経緯には、↑に挙げたような人間の存在を無視することはできません。ちょっとした遅れに対しても同様なことをしていた人間がいたのではないか、利益追求の側面とは別にＣＳＲという概念から、こんな我儘な暴徒のために偏向した顧客迎合主義があったのではないか。そう思わずにいられません。
となれば、今回の事故の犠牲者は、こういう連中にも責任の一端があるとも言えますし、こういう連中を生み出した現代社会の病理とも言えます。
更に広げれば、かく言う私も含めて、今日本に生きている人間全員にも責任があるとも言えます。
犠牲者のことを思うという「大儀名分」を唱えながら自侭な行動をする人間は「愛国無罪」で暴徒化した中国人と同等かそれ以下です。少なくとも民主国家で先進国で経済大国である日本人が、世界に範を垂れるべき日本人がすることでは決してありません。
犠牲者を悼み、かかる事故が自分に及ぶことがないように思うなら、その原因を一企業の問題としてのみ捉えるのではなく、社会全体の問題として考えることこそ、大切なことではないでしょうか。
＞事故以降も後を絶たないオーバーランや不祥事も影響しているとみられている。
読売新聞のこの言い方にも、強い憤りを感じます。日常的に茶飯事化している些細なミスを過大に喧伝したり、事故とは直接関係ないことを喜々として取り上げているマスコミが、第三者然として高みから見下ろすように書く神経もまともなものではありません。
こういう事態の責任の一端（というよりもかなりの部分）はマスコミの無軌道で破廉恥な報道あり、批判は免れるものではありません。
ただ、マッチポンプと言ってもいいこのマスコミの姿勢もまた、病める現代社会を反映しているものかもしれません。
＞西日本旅客鉄道労働組合（ＪＲ西労組）などによる
この事故で、自分達を恰も被害者の如く言い募った労組からの発表ということは、多少割り引いて考えなければならないことかもしれません。
というのは、上に挙げた事例の中には、明らかに傷害罪が適用されるものでありながら、逮捕された、検挙されたという報道がないからです。
宇宙市民的左翼は、自己の目的のために手段を選ばないということが、往々にしてあります。決して、これがそうだとは言いませんが・・・。
因みに、「ＪＲ西労組」は件の運転士も在籍し、社員の多くが在籍する労組で、イラク派兵反対とか9条の会などとの絡みがある少数派の「ＪＲ西労」とは異なり、まだ純粋に労使間交渉をしているような組織ではあります。
ただ、事故の反省は述べつつも、事故を契機に労使交渉を有利に展開しようとする様が彼らの声明などから窺えることを勘案すれば、この報道の全てを額面どおり受取るのは早計なのかもしれません。
これを読めば、私のように考えたり、現場の人間に対する同情を集めつつ経営陣に責任を転嫁させることもできますから・・・。
全く以て正論で、近年の日本人の倫理観低下は目を覆うばかり
です。これは別に日教組教育であるとかマスコミの無責任報道
だけの問題では無いと思いますね。兎に角、犯罪者を援助する
様な暗い世相が背景に有ります。地域社会の結び付きが
かなり緩んだのも犯罪者の跋扈の原因かと。
一方、支那人の「愛国無罪」を逆用し、結果的に支那人の
「愛国無罪」反日の愚かさを「嗤い」で暴く動きも見られ
悲観的な要素ばかりでは無いと思われます。
by abusan (2005-05-09 06:20)
JR職員が襲われる事件が20件を超えたそうですね。
村上春樹の地下鉄サリン事件を扱った「アンダーグラウンド」を読んだのですが、鉄道職員の方は、職業倫理感が強く、乗客の安全に人一倍苦心されている方が多いと思います。
そんな一生懸命働いている職員に対して、酷い仕打ちです。
国民も、マスコミも、JRバッシングなら、何をしても許されるなんて風潮になって欲しくないですね。
by ko-bar-ber (2005-05-09 08:32)
abusanさん、いらっしゃいませ！
こちらにもコメント頂き、どうもありがとうございます。
日本人の倫理観の低下は、看過できないレベルかもしれません。憲法改正の必要性に「権利ばかりを主張する傾向がある」というものが、挙げられるのも関係があるのかもしれません。
互助・互恵的で治安の機能を持っていたはずの地域社会の形骸化も大きな要因でしょうね。
と同時にご指摘のように、正しいが主張してこなかった多くの人が声を挙げて、何かを変えようとする機運も出てきたのも事実で、人間を堕落させ続けたマスコミを糾しながら、より多くの人が自分で考え、現実を変えようと思うことは明るいことだなとも思います。
by FD3S (2005-05-09 11:24)
ko-bar-berさん、いらっしゃいませ！
コメントどうもありがとうございます。
プロ意識というのはどこの職場にもあり、かつて高度経済成長を支えたのは、例えばトヨタで見られるように現場での改善活動（QCサークル）など地道な作業の積み重ねという要素も強かったと思います。
誇りを持って懸命に働き、当然の対価として待遇改善を求めた時代であったとも言えます。
それがいつしか、権利一辺倒になったのは、現場にいる人間だけの責ではなく、社会全体の有り様に大きく起因するのではないかと思います。
ものづくりこそが有用な資源である日本にとって、仕事に誇りを持てなくなっていることが、色々なところに齟齬をきたしているように思えてなりません。
私の親の世代（昭和ヒトケタから15年ぐらい）の年代が、戦後必死でこの国を復興しようとしていた頃の気概とその結果である今の豊かさを次代に引き継ぐことは私達の世代の課題であると思います。
小さくとも、一人一人が誇りを持って生きていくこと、そして時には忍従すること、そしてその積み上げが崩れそうな日本を立て直すのではないかな、なんて考えてしまいます。
by FD3S (2005-05-09 11:40)
私は文章表現がつたないのでいつもFD3Sさんの文章を我が意を得たりという気持ちで読んでおります。
最近のマスコミの論調を見るに、日本はどこか大切なところで道を間違っているという感がしております。
by EyesOnly (2005-05-09 17:38)
yasu-oさん、はじめまして、ようこそ拙ブログへ！
コメントどうもありがとうございました。
＞我が意を得たりという気持ちで読んでおります。
過分なお褒めに預かり恐縮です。ありがとうございます。
＞最近のマスコミの論調を見るに、日本はどこか大切なところで道を間違っているという感がしております。
私もそう思います。
「衣食足りて礼節を知る」という言葉がありますが、私達日本人は豊かさと引き換えに何を手にしたのでしょうか？
マスコミの論調も、見る側が求めたという側面がありはしないかと考えると非常に悩ましく思います。
ただ、ブログをはじめて本当に良かったと思うのは、こういう日常的な些細な感情に共感でき、共有できる方の存在を知り得たことかなと思います。
まだ発展途上のブログですから、まだまだ紆余曲折はあると思いますが、おかしいと思いながらも声に出せなかった多くのことを検証し修正するような媒体になって欲しいなと思っています。
今後とも宜しくお願い致します。
by FD3S (2005-05-09 18:49)
丁度同じものを取り上げておりました。
大衆というのはムードに流されやすい。だから情報発信者の責任は重いと思いますが、同時に我々もまたメディアを読み取るリテラシーが問われるわけですね。
by あんとに庵 (2005-05-09 20:55)
はじめまして。
中国のコトと笑えないってたしかにおっしゃるとおりですね。
いろいろブログ見て、
皆の一言言いたい！！
って気分が伝わってきますよね。ブログはすごいな、ほんとに。
失礼しました。
by プラン７ (2005-05-09 23:15)
あんとに庵さん、こんばんは、いらっしゃいませ！
コメント＋T/Bありがとうございました。
大衆は流されやすい、かつて扇動政治家ってものがいましたが、現在のように多様化した情報社会においても扇動は存在するように思います。
いずれの時代もそれに流されずに自分で考えることが大切なんだなと思います。情報は玉石混交ですが、それらから如何に有用な情報を取捨選択し、結論を導くのか、リテラシーという能力は大切になってくるであろうと思います。
by FD3S (2005-05-10 00:15)
プラン７さん、はじめまして、ようこそ拙ブログへ！
コメントどうもありがとうございました。
人のフリみて我がフリ直せではないですが、あの騒動よりも下劣な行為を似恩人がしたことは腹立たしい限りです。仮に被害者の方、遺族の方が同様の行為をしても許されることではないでしょう。ましてや、一般の乗客がそれをしたとなれば、問題外ですよね。
それを助長したのはマスコミかもしれませんが、それに乗って行動したのはこの記事にあるような人達です。善悪を度外視した正義は正義でないと理解して節度ある行動をするように心がけたいなと思いました。
by FD3S (2005-05-10 00:20)
わたしも全く同じことを感じていました。
また、
＞こういう事態の責任の一端（というよりもかなりの部分）はマスコミの無軌道で破廉恥な報道あり、批判は免れるものではありません。
この部分も同様です。
連日、宴会をやっていたのがｘ人、ボーリングをやっていたのがｘ人などという報道にうんざりしたと同時に、記者会見での質問は、あたかも「国民や遺族の代弁をしているのだ」的な傲慢な発言が頻出していたこともアホすぎて悲しくなります。
by 妾番長 (2005-05-15 02:57)
妾番長さん、はじめまして、ようこそ拙ブログへ！
コメントどうもありがとうございます。
共感いただきまして、光栄です、ありがとうございました。
仰るとおり国民の権利を代行したり、代弁するなどと増長も甚だしいと、マスコミの過剰な報道に接する度に憤りを感じてしまいます。
が、一方でそれに同調したり受け容れてきた世論があったことも残念ながら事実なのかもしれません。ネットの普及で日常的な「？」を自分である程度解決できるようになった今、このようなおかしな報道に関して、冷静に批判できる世論が形成されることが重要なのかなと思います。
マスコミが内部から健全化することは多分ないだろうと思いますから。
by FD3S (2005-05-15 04:02)
単純な話、国民の総員が総員民度の高い国ってどこでしょうか？いまスイスにいますけど、結局ここの人も民度が低い。あの「スイス」でこの様です。これ以上民度の高い国はどこでしょうか？
そもそもニュースの記事等を見て「民度が・・・」なんていうのは間違っていると思います。民度と言うのは個々の事例ではなくて社会風潮によって判断されるべきものですから。日本ならここにあるような事をする心無い人は１０００人に１人位でしょうからやはり民度が「比較的」高いでしょう。
今度ルクセンブルグかリヒテンシュタインに住んでみたいです。彼らの民度はいかなるものか．．．
by NO NAME (2005-05-25 07:23)
NO NAME (2005-05-25 07:23)さん、いらっしゃいませ！
スイスからのコメントどうもありがとうございます。
いやぁ、感動ですね。スイスの地から、こんな拙文をご覧になっていただけるとは。
「民度」ですが、中国でのデモを指して、「民度」が低いから・・・というような論調があったのと、独善的な正義を振りかざして暴挙に出る人がいたというこの事例に同様な違和感とやるせなさを感じましたので、敢えて「民度」という言葉を使って比較しました。
ただ、ご指摘頂きましたように、幾つかの事例を「民度」という言葉で単純化するのは語弊があったと思います。
ご指摘くださいましてありがとうございました。
＞ルクセンブルグかリヒテンシュタインに住んでみたいです。彼らの民度はいかなるものか
ヨーロッパを転々となさっておいでなのでしょうか。国内にいて、近視眼的になっている私からすれば、実に羨ましい限りです。
お時間がございましたら、また是非お立ち寄りください。
by FD3S (2005-05-25 13:38)