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地裁ってやばくない?① [2005年5月]

地裁ってやばくない?①

熊本では朝鮮総連の施設課税に対して「公共性がある」と摩訶不思議な見解を示し、福岡地裁では傍証ながらも靖国参拝を違憲とした裁判長が、国旗・国歌訴訟では合憲だけど処分を取り消したり、東京地裁では正式な婚姻関係にない「内縁関係」に寛大な裁判長が、国籍法の解釈を拡大して国籍を付与したり、遺族年金を与えるようにしたり、佐賀地裁で死刑を求刑された人に無罪判決が下りる等と首をかしげるような判決が最近目につきます。

そしてこれらの判決は高裁以降では、ほぼ悉く却下されるか逆転判決が出るという状態であり、地裁の判断が高裁、最高裁の判断と乖離している状況が続いています。

ということで、このエントリでも地裁の判決をひとつ見てみますが、これはかなり微妙なとこです。でもやっぱり何か変な気がします。

asahi.com: 介護必要な家族いる従業員への転勤命令に無効判決 - 社会

介護や援助が必要な家族がいるのに遠隔地への転勤を命じたのは不当として、ネスレジャパン姫路工場(兵庫県香寺町)の男性従業員2人が、本社のネスレジャパンホールディング(茨城県稲敷市)に地位保全と賃金の支払いを求めた訴訟の判決が9日、神戸地裁姫路支部であった。松本哲泓(てつ・おう)裁判長は「2人が転勤すれば、家族の治療や介護が困難となり、症状が悪化する可能性がある。不利益は大きく、配転命令権の乱用にあたる」などとして、転勤命令を無効として従う義務がないことを認めるとともに、会社側に03年9月以降の未払い賃金の支払いを命じた。

原告側代理人の吉田竜一弁護士は「家族の介護などの理由で配転命令が無効になるのは珍しい。家庭の問題を抱える従業員に、転勤が大きな影響を与えることを認めてくれた意義ある判決だ」と話している。

勝訴したのは、妻が精神病を患っている兵庫県姫路市の男性従業員(55)と、母親がパーキンソン病のため要介護度2の認定を受けている同県神崎郡内の男性従業員(49)

判決によると、ネスレ社は03年5月、贈答品の箱詰め作業をしていた姫路工場のギフトボックス係の廃止を決め、従業員60人に茨城県稲敷市の霞ケ浦工場へ転勤するか、退職するかの選択を迫った。9人は転勤に応じ、49人は退職した。

原告の2人は家族の援助や介護が必要だとして姫路工場に残りたいと会社側に要求したが、拒否された。03年9月から給与の一部の支払いを止められた。

判決は、業務上必要な転勤命令であっても、労働者が通常受け入れるべき不利益を著しく超える場合など特段の事情がある場合には、使用者の権利の乱用となり、転勤命令が無効になるという一般的な判断を示した。

そのうえで、判決は、原告の家族の状態について、「精神病の妻は家事をすることや単身で生活することは困難。夫の転勤により病状が悪化する恐れがあった」「転勤すれば、要介護状態の母親の介護が困難になったり、病状が悪化したりする可能性があった」などと認定。従業員に著しい不利益を与えるとして、会社側の転勤命令は権利の乱用にあたると結論づけた。

原告2人は03年6月に地位保全などを求める仮処分を同支部に申請。同11月、請求を認める仮処分決定を得たが、会社側が姫路工場での就業を認めないため提訴した。

判決後、記者会見した姫路市の男性従業員は「会社のやり方は強引だった。意に沿った判決で大変うれしい」、神崎郡の男性従業員は「介護の大変さを認めてもらい良かった」と話した。

判決に対しネスレジャパングループ広報室は「判決文を見ていないので、コメントは差し控えたい」としている。

心情的には妥当な良い判決かなとも思います。

>妻が精神病を患っているの男性従業員(55)

>母親がパーキンソン病のため要介護度2の認定を受けている男性従業員(49)

介護する立場であるお二人にとって環境の変化は非常に由々しき問題でしょうし、様々な状況を考えてもその過酷さは察するに余りあります。
だから、これが判決にあるように特段の事情に基づくと断った上での判決であるのはむしろ良しとすべきかもしれません。

ただ、それでも気にかかるのは、雇用した会社が被雇用者の家族の扶養にどこまで責任を負うべきなのかという点でしょうか。会社と社員の間にある関係は労働の提供とそれに相当する対価の提供というイコールバランスで成立しています。そして、労働者の家族に対しては扶養手当などを福利厚生の観点から会社は支給します。しかし、家族の扶養及びそれに起因する責任は家族が負うべきものであり、会社にそれを転嫁するのは、特段の事情があって、心情的に妥当と思えても、ちょっと違うのではないかと思います。

>姫路工場のギフトボックス係の廃止を決め、従業員60人に茨城県稲敷市の霞ケ浦工場へ転勤するか、退職するかの選択を迫った。9人は転勤に応じ、49人は退職した。

ここで注目すべきは対象者の8割を越える49人が退職を選択していることです。もちろん、早期退職優遇の措置が講じられ、通常の退職金に相当の金額が加えられたものと考えられます。また、会社都合ということになるでしょうから失業保険も登録してすぐに支給されます。
また、業務内容から類推するにパートタイマーの方も多かったのかもしれません。となれば、地域に根差しているのが当然であり、故に異動者が9人に留まったと考えることができます。尤も異動先の必要人員がその程度であったということも考えられますが。

ここで、今回の2人に与えられた選択肢は、辞めるか、異動するかしかなかったということです。彼らが両者とも肯んずることが出来なかった理由こそ裁判における争点になるべきで、その点について会社に負うべきところがあって初めて、この判決が妥当となるのではないでしょうか?

>原告の2人は家族の援助や介護が必要だとして姫路工場に残りたいと会社側に要求したが、拒否された。03年9月から給与の一部の支払いを止められた。

所属する部門が統廃合されることは、今の日本社会では不可避の現実です。そしてそれによって、退職する人も異動する人も相当数に昇っているのが現状です。そういう状況の中、この2人の主張はどこまで認められるのでしょうか?

会社側が何とか転勤を伴わない異動の措置を講ずることができれば、問題がなかったのかもしれませんが、この不況下で余剰な人員を抱えておくことが出来ないのも現実です。また、この2人を特別扱いした場合に、他の従業員との間に公平を欠くのではないでしょうか。

会社がその「場所」において、労働という対価を期待できない人に転勤を伴う異動や退職を勧奨することは、当然の権利であると思いますし、家族というプライベートの問題の解決を会社に要求する権利は被雇用者にはないと私は考えます。

>地位保全などを求める仮処分を同支部に申請。同11月、請求を認める仮処分決定を得たが、会社側が姫路工場での就業を認めないため提訴

仮処分は、民事保全法の第23条第2項に次のように規定されています。

仮の地位を定める仮処分命令は、争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするときに発することができる。

仮処分は、「物」を対象としたものと、解雇無効を主張する従業員などに対する賃金支払い命ずるなど、被保全権利について当時と同等の権利を認めるものがあり、今回のケースでは、原告2人の地位と賃金を保証するような処分です。
これらは、本案審理までの不利益を排除するための暫定措置であり、その決定が即ち本案審理に結びつくものではありません。

従って、仮処分が下されたからといって、必ずしも係争が解決するわけではありません。

>業務上必要な転勤命令であっても、労働者が通常受け入れるべき不利益を著しく超える場合など特段の事情がある場合には、使用者の権利の乱用となり、転勤命令が無効になるという一般的な判断

>「精神病の妻は家事をすることや単身で生活することは困難。夫の転勤により病状が悪化する恐れがあった」「転勤すれば、要介護状態の母親の介護が困難になったり、病状が悪化したりする可能性があった」などと認定。従業員に著しい不利益を与えるとして、会社側の転勤命令は権利の乱用にあたると結論づけた。

ところで、この原告は、会社からの通告があった時点で、現地の医療事情、住環境などを調査し、異動によって現在の介護レベルを維持できないことを確認した上で会社に異動拒否を伝えたのでしょうか?

さらに会社はこの2人に単身での異動を打診したのでしょうか?

家族を伴う転勤が困難であることが明白であり、かつ単身での異動しか認められておらず、当該工場でも異動先でも同様の業務が存在するという状態においてなら、この判決は妥当なのかもしれません。

と言うよりも、異動を拒否する権利は、もとより当然の権利として彼らにあったはずです。それに不服な場合はもちろん退職という選択肢しかありませんが。

ところで、原告は地位保全と賃金の支払いを求めて裁判に及んでいます。それに対して、判決では 「労働者が通常受け容れ入れるべき不利益を著しく超える場合などの特段の事情」に「家族の介護」が相当するとして、

>転勤命令を無効として従う義務がないことを認めるとともに、会社側に03年9月以降の未払い賃金の支払いを命じた。

何かおかしくないですか?

彼らは転勤の無効を求めているのではなく、当該工場に留まることを求めているのですから、本来争点になるのは、退職勧奨の妥当性ではないのでしょうか?

彼らが転勤命令に従う義務がないことと、会社が彼らの地位を保全する義務を負うことは同義ではないでしょう。また、2003年から今まで、不就労であった賃金を求めるのも合点がいかないことです。

現代社会において、業務の縮小、統廃合は先にも述べたとおり不可避の現実です、更にそれに伴って整理解雇も必要になります。もちろん、それを行うには十分な正当性があることが前提になりますが。
恐らく解雇に関しては就業規則に載っているはずで、従業員はそれに従うことも労働の条件になっています。ですから、適正な手続きに則っていたのであれば、会社には分があり、彼らには分がないと私は思います。
彼らが地元に拘泥するならば、再就職を考えるべきであったと思います。

そうは言っても、私には、家族の介護のために、会社を辞めて全く関係ない自営の仕事を継いだ友人もいますし、転勤嫌って転勤のない専門職に職分を変更した友人もいますから、私でも、彼らが転勤も退職も拒む心情はよくわかります。

原告の年齢を見れば、再就職は難しいだろうという社会状況も理解できます。
地元に親戚や友人など介護を支援してくれる人達もいるのだろうと思います。

しかし、いずれも拒む正当な理由を見つけることはできません。
家族の問題に関して、例えば介護に限らず、出産や育児についても会社が、社会情勢、個々の状況、その他を十分に理解し、相応の処置を講じるべきだとは思います。人材の流動が激しくなる中では、そういう面をむしろ強化すべきであるとも思います。
ただ、その全ての責任を負わねばならないかと言えば、それは違うと思います。

再就職が難しいのも、社会的に介護へ支援が不十分なのも、会社の責任ではありません。

これから少子・高齢化が加速するであろう日本においては、これらの問題を負うべきは、国民全体であり、決して一民間企業に求めるべきではありません。

と言いながら、現時点では企業に負わせる以外に解決の道はないのかもしれません。今の日本が介護その他の家庭の問題を気にせずに働ける社会とは到底言えないからです。

ただ、それをいつまでも民間企業に転嫁すればどうなるでしょうか?
介護を必要とする家族を持つ人は不当な扱いを受ける事だって考えられます。転勤できない、余剰になっても解雇も出来ないとなったら、採用を手控える企業もきっとでてくるでしょう。

もしそうなれば、本来社会全体が守らなければならない人達に対して差別的な感情を助長する結果になるのではないかと危惧します。

う~ん、ちょっとアレな判決かなとも思いましたが、思いのほか深い内容でまとまりに欠けてしまいました。


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コメント 4

てっちん

こんばんわ。
なんともコメントの難しい内容ですね。
>早期退職優遇の措置が講じられ、通常の退職金に相当の金額が加えられたものと考えられます。
これに関しては対象となっている2人の年齢から再就職の難しさを考慮のうえ残留希望なのかなとも考えられます。
ただ、なんか引っかかる内容なのですがうまくコメントできないんですよね。
>姫路工場のギフトボックス係の廃止
>会社側が姫路工場での就業を認めないため提訴
姫路工場に他の係りがあって操業自体は続いているのか、姫路工場事態閉鎖の方向なのか不明なんで、ここに残りたいというのがどの程度妥当なのか。
会社としてはいちいち社員の就業場所の希望などは聞いていられないですし、就業場所の移動などは珍しいことでもないでしょう。
うーん、なんかこの記事だけでは判断が難しい気がしますが、最近続いた明らかに「はあ?」的な判決に比べればましですね。

ではでは
by てっちん (2005-05-11 02:23) 

美濃ちき

おはようございます。
ここのところの「はぁ?」的な地裁の判決は大変気になります。
今回のネスレの従業員の裁判は、私も同じ要介護の家族を持つ身ですので、他人事ではないのですが、やはり、なんでも会社にオンブに抱っこは如何なものかと思います。
私が勤めている会社は、来春には西日本に移転しますので、子供の主治医探しをまたゼロから始めるのは正直言って辛い事ですが、
たださえ、介護のために他の同僚よりも休みがちですし、早退も多いですから、これ以上の要求をするのは躊躇してしまうでしょう。
もちろん、この記事の方とは状況も違うでしょうから、同一視はできませんし、
出来る事ならこの土地に残りたいとの思いは私も一緒です。
ただ、サラリーマンである以上、転勤・転属は折込済みと割り切るしかないと思っております。
by 美濃ちき (2005-05-11 09:10) 

FD3S

てっちんさん、いらっしゃいませ!
コメントどうもありがとうございます。

最初は、地裁なイタタな判決、のつもりで書いていたのですが、書き進めると何とも深く考えさせられる問題でした。端的に言えば、再就職をしない彼らは甘えていると言えるのですが、じゃあ、再就職はすんなりできるのか、できなければ家族の介護はどうなるのか、とか考え出してしまいました。
弱者=正義はおかしいと思いますが、そういう理屈だけでは解決しない問題も当然の事ながら、たくさんあるわけで、考えさせられました。

まぁ、地裁のイタイ判決は、これに限らず多くあって、司法制度の問題はもう少し色々なサンプルを使って考えていこうかなと思います。
そして介護などの問題は、左翼の看板にするのではなく、多くの普通の国民(私も含めて)の関心事として考えなければならないなと思わされた記事でした。
by FD3S (2005-05-11 22:55) 

FD3S

美濃ちきさん、いらっしゃいませ!
コメントどうもありがとうございます。

私の場合はまだ、介護といっても対象は両親しかいませんし、両親は60をとうに超えていますが、幸いなことにまだ壮健で介護は現実問題ではないのですが、そう遠くないうちに直面するであろう身近な問題です。
私は今、実家の近くで仕事をしていますが、有難いことに東京にある幾つかの企業からお誘いがあったりして、このままでいいのかと悩むことがあります。
両親もお前の人生だからと言ってくれますが、日頃気にならない、長男の自覚がそういうときに限ってでたりして、悩む事があります。

今回のエントリでスパッと理屈で割り切ることが出来なかったのも、そういう現実があるからかもしれません。
と、思うと今まで、理屈で書いてきたエントリの中にも、身近でないが故に割り切れないものを割り切るようなことを書いてきたのかもしれないなと思っているところです。

来春には西日本に異動されるとのことですが、その地の気候や風土、その他の環境が、美濃ちきさんのお子様にとって、快適なものであればいいですね。
by FD3S (2005-05-11 23:11) 

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