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二重基準

二重基準

諸般の事情があり、長いことお休みさせていただいておりました、FD3Sです。

復帰を諦めた時期もありましたが、ぼちぼちとまた書いていきたいと思います。

ここを覗いて下さった方、コメントやT/Bを下さった方、また、宜しくお願い致します。

久しぶりの登場ということで、こちらも久しぶりに話題になったフセイン元大統領について書かれた朝日新聞の社説(051021)を取り上げてみます。

asahi.com :朝日新聞今日の朝刊-社説

フセイン裁判 報復にしてはならない

久しぶりに姿を現した元大統領にあまりやつれた様子はなかった。私はイラク共和国大統領だ」と悪びれずに語り、無罪を主張した。

イラクの独裁者、フセイン元大統領を裁く特別法廷がバグダッドで始まった。不測の事態を恐れてか、さくで囲まれた被告人席には元大統領のほか、元副大統領ら7人が顔をそろえた。権勢を誇った支配者たちの惨めな姿は、テレビを通じて国内外に放映された。

アラブ世界の独裁者がこのように法廷に立たされるのは前例のないことだ。独裁や権威主義体制が広く根付いている地域だけに、この映像は近隣の諸国にも衝撃を与えている。

国内での受け止めは複雑だろう。虐げられてきた人々には、法の裁きが下されることへの期待があるのは間違いない。その一方で、かつての国家指導者が外国の力で倒され、断罪されることに割り切れなさを抱く人々もいる。

この裁判の結果はどうあれ、これからの国家再建の長い歩みの中で、イラクの人々自身が独裁者の罪を問い、評価を決めていく。特別法廷はその始まりに過ぎないのだろう。

そうは言っても、この法廷にはいくつもの疑問がある。米英の占領が続いていた時代につくられたものだ。いくら米国が「イラク人の国内法廷だ」と言っても、国際法に照らして妥当かどうか。裁判の準備や厳しい警備は米軍が主に担っている。

5人の裁判官は、現在の暫定政権を支配する多数派のイスラム教シーア派とクルド人だ。フセイン体制ではいずれも冷遇されてきた宗派、民族である。優遇されたスンニ派はいない。報復になる危険はないのか。

被告席に座った元大統領らは、シーア派やクルド人に対する虐殺などの罪を問われている。だが彼らの犯罪は、それだけにとどまらない。

イラン・イラク戦争や湾岸戦争のもとになったクウェート侵攻、イラン兵に対する化学兵器の使用など、国内法廷では裁ききれない多くの戦争犯罪をどう扱うのか。

これだけ疑問のある特別法廷の審理を急ぐべきではない。

いまのイラクが最優先すべきなのは、民族や宗派のバランスをとりつつ、統一された国家を再建することだ。スンニ派をどう政治プロセスに取り込むかが焦点になっているのに、「スンニ派への報復」と受け止められかねないフセイン裁判を強行するのは得策とはいえない。

異なる宗派・民族が曲がりなりにも共存できる体制をつくることが先決だ。いずれは外国の専門家を加えて、国際法廷の性格を持たせることも必要だろう。

元大統領は、被告であると同時に歴史の貴重な証言者でもある。地域に君臨したこの「怪物」を生み、支えたものは何なのか。フセイン証言で少しでも明らかにしてもらいたい疑問だ。

60年ほど前に、敵国主導の裁判で当時国際法にも存在しない概念で一方的な裁きを受けた国家の指導者達がいました。

そして、その人々をこの朝日新聞は目の敵の如く扱っています。にも関わらず、独裁者である、かの御仁を何故ここまで擁護するのでしょうか?

>「私はイラク共和国大統領だ」と悪びれずに語り、無罪を主張

かつて、日本の指導者達は潔くその罪を認めはしなかったでしょうか。フセイン氏のように厚顔無恥宜しく無罪など主張しなかったはずです。立居振る舞いはフセイン氏のように堂々たるものであったと推察しますが・・。

>国内での受け止めは複雑だろう。虐げられてきた人々には、法の裁きが下されることへの期待があるのは間違いない。その一方で、かつての国家指導者が外国の力で倒され、断罪されることに割り切れなさを抱く人々もいる。 

核を保有し、世界の平和を蹂躙した独裁者に向けて、これだけ慮れる朝日新聞はしかし、自国の過去についてはまるで考えが及ばないようです。 

このくだりは、かつての国家指導者達が外国の力で倒され、弁明の余地もなく断罪されたことに思いを馳せ、割り切れなさを感じ、不戦を誓ってその魂を慰撫する行為を、まるで鬼の首でもとったかのように喧伝した新聞社のそれとは到底思えないしろものです。 

>イラクの人々自身が独裁者の罪を問い、評価を決めていく。

自国民の手で裁き、評価することを認められなかった日本の悲劇を繰り返さないように説く、というのであれば彼らの主張にも首肯しえるのですが、その部分を失念もしくは意図的に欠いたままのこの主張はとても肯んずるわけにはいきません。

>そうは言っても、この法廷にはいくつもの疑問がある。米英の占領が続いていた時代につくられたものだ。いくら米国が「イラク人の国内法廷だ」と言っても、国際法に照らして妥当かどうか。裁判の準備や厳しい警備は米軍が主に担っている。

そういえば、東京で開かれたあの裁判にもいくつもの疑問がありましたが、そのことはスルーでしょうか。あの時もGHQという占領軍によって占領された状態での報復に近い裁判だったと言われていますが。
更に、国際法に照らして妥当なものでもありませんでした。勿論、裁判の全てをアメリカが取り仕切ったのは言うまでもありません。
或る意味これだけ酷似した状況でありながら、一方はその進め方に疑問を呈し、他方はまるで正義の裁判であったかのように捉えるというのは、得意技であるとは思いますが、二重基準意外のお手本のような感じがします。

>5人の裁判官は、現在の暫定政権を支配する多数派のイスラム教シーア派とクルド人だ。フセイン体制ではいずれも冷遇されてきた宗派、民族である。優遇されたスンニ派はいない。報復になる危険はないのか。

報復に近い扱いを受けた日本のかつての指導者達は、一体どうなるのでしょう。もちろん、朝日が言うように、今のイラクでの裁判に問題点があるのは事実でしょう。しかし、彼らの主張に迫力がないのは、自国で起きた類似案件について一言半句たりとも触れていないことです。

説得力のある文章には、イメージし易い例などをちりばめることが重要であると思いますが、彼らにはそれはできません。自国のサンプルを例示すれば、従来の彼らの主張が破綻するからです。しかし、フセイン(スンニ派=現状の少数派)の肩は持ちたい・・・。

普通そういうジレンマがあれば、主張するに二の足を踏むのでしょうが、それをしない朝日はやはり偉大というか、異大というか。

>国内法廷では裁ききれない多くの戦争犯罪をどう扱うのか。これだけ疑問のある特別法廷の審理を急ぐべきではない。

そう、あのときも急ぐべきではなかったのです。が、新しい国づくりを行うときに、あれはどうだったのでしょうか。日本人の民意だけで占領サイドは納得したでしょうか?そう思えば彼らはまさに今の日本の礎になっているということになるのではないでしょうか。
確かにフセイン氏はじめ旧政権の面々を早急に処断することは、早計でしょうが、あれだけの対立がある国でなんら外部からの強制力なく自立するというのも困難なのではないでしょうか。

>民族や宗派のバランスをとりつつ、統一された国家を再建することだ。スンニ派をどう政治プロセスに取り込むかが焦点になっているのに、「スンニ派への報復」と受け止められかねないフセイン裁判を強行するのは得策とはいえない。

民族や宗派のバランスが取れない、取り難いからこその独裁であったことを考えれば、自治、自立などという美辞麗句で済まないことは自明ではないでしょうか。統一された国家が容易にできるなら、長い年月にわたる抗争など起きないのではないでしょうか。朝日の論調はまるでスンニ派に阿っているように感じられます。

>異なる宗派・民族が曲がりなりにも共存できる体制をつくることが先決だ。いずれは外国の専門家を加えて、国際法廷の性格を持たせることも必要だろう。

異なる宗派や民族が共存する体制を構築することと、旧政権の罪科を糾すことを同じ次元で考えている限り答えを見出すことはできないでしょう。現在の主流派は、旧政権の罪を詳らかにしつつ、恩讐に取り憑かれることなく未来を睨み建設的であること、少数派は過去の罪科に対しては謙虚に受け入れつつも妥協できる部分、譲歩できる部分を明確にすることが肝要ではないでしょうか。

赦すには赦すだけの何かがなければ、分かれたもの同士の和解は困難であろうと私は思います。それが旧政権の指導者達を断罪することであれば、徒に時を置くことこそ、新たな紛争の火種になるであろうと思います。

ところで、↓のセンテンス

>異なる宗派・民族が曲がりなりにも共存できる体制をつくること

は、なんとなく、日本と極東のとある国々との所謂「東アジア共同体」でも使い回しそうなフレーズですね。新聞もコピペの時代になってきているのかも。


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あんとに庵

お帰りなさいませ。どうしたのか心配しておりましたよ。
で、変らず飛ばしたエントリに一安心。
しかしフセイン・・どことはなしに憎めないんですよ。わたくし的に。利害関係が直接的にないからですけど。
朝日はアメリカが嫌いなはずなのにアメリカ様の主導だった東京裁判のあの結果は礼賛しているという按配ですかね。
by あんとに庵 (2005-10-21 22:56) 

FD3S

あんとに庵さん、いらっしゃいませ!
大変ご無沙汰いたしました。
早速のコメントどうもありがとうございました。

朝日の言うことそのものは、決して間違いでない部分もあると私も思うのですが、日頃東京裁判や押し付け憲法を肯定(というより頑迷に堅持)する彼らの主張と余りにも乖離しているなぁと思ってエントリしました。
きっと彼らには、強いものへの憧憬の念と嫌悪の念がうまい具合に同居しているのでしょうね。

これからも宜しくお願いします。
by FD3S (2005-10-22 12:14) 

abusan

仕事が忙しすぎてプログ所じゃないかな(^◇^;)と思いました。
クラアイアント対応とか色々大変なのは想像に難くありません
でしたし。(お仕事ご苦労様ですm(__)m)

今回は正直私めには反論が難しいですね。反米主義が露骨
ではなさげですし(^◇^;)馬鹿社説という程では無いと。
まあ、過去の社説の流れから言って鵜呑み禁物の代物で
ある事だけは確かです。まあ、ご指摘の様に東京裁判
と比較したら乖離が目立つのですが、一番の問題は
フセイン元大統領の処置に於いてイスラム諸国が納得するか
どうかですから敢えて突っ込む気にはなれないです。

と言うわけで今回は屁垂れにもスルーします(^◇^;)
by abusan (2005-10-23 09:24) 

atsu

お久しぶりです。更新を首を長くして待っておりました。

この件についてですが、今朝のサンデーモーニングで浅井信雄氏が言及してました。
「この裁判は東京裁判と構図が似ている」
というので、何を言うのかと思えば
「だから東京裁判を否定する人たちはこの裁判も否定しないといけませんね」
とのたまいました。

しかし、それは逆もまたしかりではないでしょうかね。
東京裁判を有難がっている人たちこそ、このフセイン裁判も評価すべきでしょう。
ちなみに私は東京裁判否定派ですので、今回の裁判を東京裁判の二の舞にしてはならんと思っています。
まあイラク国内でもスンニ派とシーア派・クルド人で意見が異なってますので、どれがイラク人にとって最良の選択とも言い切れないから過度には口出ししませんけどね。

http://atsupeugeot.seesaa.net/
by atsu (2005-10-23 21:06) 

FD3S

abusanさん、いらっしゃいませ!
大変ご無沙汰致しました。
早速のコメントどうもありがとうございました。

>仕事が忙しすぎてプログ所じゃないかな(^◇^;)と思いました。
もちろん、有難いことに仕事が忙しかったのもありますが、何となく、日々のニュースに対する関心が以前のように涌かずにもんもんとしておりました。
が、朝日のこの社説で、またむくむくと書きたい気持ちが復活しましたので、
不定期になるとはおもいますが、再起した次第です。

>今回は正直私めには反論が難しいですね。反米主義が露骨ではなさげですし(^◇^;)馬鹿社説という程では無いと。
→確かに仰るとおり、いつものようなキレ(?)はないと私も思いました。が、だからこそ、そこに朝日らしい姑息な一面を垣間見た気がしてエントリしました。
彼らの軸足である、「反米」を表すのにこれほど格好のネタはないはずなのに、何となく、こじんまりとした、言い換えれば結構まともなことを言っているような感じな文章になっていることこそ、彼らがこのイラクの裁判が東京裁判に近しいという認識を持っていることの証左のような気がしたのです。

>まあ、過去の社説の流れから言って鵜呑み禁物の代物である事だけは確かです。まあ、ご指摘の様に東京裁判と比較したら乖離が目立つのですが、一番の問題はフセイン元大統領の処置に於いてイスラム諸国が納得するか
どうかですから敢えて突っ込む気にはなれないです。
→イスラム諸国の合意というのは、かなりな難題でしょうね。彼らは程度の差こそあれ(イスラエルは別ですが)、反米感情を持っていますからね。極端に言えばイラク国内においても今回与党サイドとなった、シーア、クルドの人々も敵の敵は味方以上の感情をアメリカには持っていないだろうと思うからです。
アメリカ色が強くなれば、それに対する反発は想像に難くありませんし、それを抑えれば、シーアとクルドは仲睦まじくやっていけるのかも、疑問符が付きます。
まあ、このエントリでは、イラクの民主化がどう、という論点よりも朝日新聞の戦後処理に関する認識のブレをツッコミたかったと言うところがメインでしたので、こういう形になりました。
by FD3S (2005-10-24 02:25) 

FD3S

atuさん、いらっしゃいませ!
大変ご無沙汰しております!
早速のコメントどうもありがとうございました。

>お久しぶりです。更新を首を長くして待っておりました。
→うう・・。そんなことを言って頂けて光栄です。それとごめんなさいです。

>この件についてですが、今朝のサンデーモーニングで浅井信雄氏が言及してました。
「この裁判は東京裁判と構図が似ている」
というので、何を言うのかと思えば
「だから東京裁判を否定する人たちはこの裁判も否定しないといけませんね」
とのたまいました。
→土日は、接待ゴルフなどというものに駆り出され、疲労困憊でしたので、見ることができませんでしたが、そうですか、国際政治学者?の浅井氏がそのようなことを。名前のとおり読みが浅いのかもですね。

>しかし、それは逆もまたしかりではないでしょうかね。
東京裁判を有難がっている人たちこそ、このフセイン裁判も評価すべきでしょう。
→件の浅井氏がどちらのスタンスかわかりませんが(TBS御用達なら推して知るべしでしょうが)、atuさんの仰るとおり、逆も真なりですね。
できるなら、東京裁判容認派は、この問題ではあまり大きな声は出せないですよね、浅井氏のような考えに立てば立つほど。

>ちなみに私は東京裁判否定派ですので、今回の裁判を東京裁判の二の舞にしてはならんと思っています。
まあイラク国内でもスンニ派とシーア派・クルド人で意見が異なってますので、どれがイラク人にとって最良の選択とも言い切れないから過度には口出ししませんけどね。
→私もエントリで東京裁判否定派ですので、被爆国の日本が核廃絶に対して主張するように、この問題でも悲劇の再現はしないようにして欲しいものです。
ただ、イラクは日本と異なり、単一民族でもなければ、宗教心が希薄でもありませんから、単純な比較はできないな、というのが正直なところです。
by FD3S (2005-10-24 02:39) 

Hiro-san

通りがかりのヒロさんです。コピーを思いつきました。
「日本の天下の秋は、FD3Sの長文読解から始まる」

イギリスの秋は、ヒロさん日記とは無関係に勝手に始まっているようです。今後ともよろしく(ペコリ)。
by Hiro-san (2005-10-24 07:25) 

FD3S

Hiro-sanさん、いらっしゃいませ!
大変ご無沙汰しております。
早速のコメントどうもありがとうございました。

秋の夜長とは言え、こんなまとまりのない長文はないだろうと自分でも思いつつ、短くできないのです。結構、しつこい性格なもので(笑)。
またこれから、ネチネチ系の逐語的ツッコミをしてまいりたいと思います。

こちらこそ、今後とも宜しくお願い申し上げます(伏)。
by FD3S (2005-10-24 23:39) 

ko-bar-ber

復活おめでとうございます。
イラク裁判は、やはり国連主導の国際法廷という形で進めるべきなのか、それとも異教徒による裁判には抵抗があるのか、私自身にもよく分かりません。
結果がどうなるのか、非常に難しい裁判になることだけは確かなようですね。
by ko-bar-ber (2005-10-25 20:31) 

FD3S

ko-bar-berさん、いらっしゃいませ!
大変ご無沙汰しております。
早速のT/B+コメントどうもありがとうございました。

この裁判は、東京裁判に似ていると書いたのですが、似てはいても状況は東京のそれよりももっと複雑で、同じ感覚で見るとそれはそれで過ちを犯しそうな気がします。日本人が裁くわけではありませんが、宗教という今の日本人には希薄だが、彼らにとっては生きるための「よすが」である部位をどのように解決するのか、部族間の軋轢をどう解消するのか、一筋縄ではいかない問題が山積しているように思います。この裁判が新たな火種にならぬよう、当該地域の安寧に寄与するよう願ってやみません。
by FD3S (2005-10-27 00:48) 

Executor

>朝日はアメリカが嫌いなはずなのにアメリカ様の主導だった東京
>裁判のあの結果は礼賛しているという按配ですかね。

朝日は基本的にアメリカ大好きですよ。
ブッシュが嫌いなだけです。
by Executor (2005-11-06 22:22) 

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